序章

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 プシュ、と空気の抜ける音がして、私を収めていた棺のような箱の蓋が開いた。  途端に箱内に冷気が這いより、私は体を震わせる。  体を締め付けていた圧迫感から解放され、自由を取り戻した両腕を頭へやる。  そして何も見えなくなったプロジェクターを銀色のヘルメットごと脱ぎ去り、私は頭を数回振った。そう長くもない髪が広がり、戻り、私の頬を軽く打つ。 「……勝った……」  口に出して、安堵する。  私は、勝利したのだ。  実感を得ようと右に視線を滑らせた。  白い壁に斜めに立てかけられた、鈍色に光を弾く棺桶状の鉄の箱は、五つ並んでいる。私が入っているものと合わせると、六つ並んでいることになる。そのうちの一つの蓋が、跳ね上げられて開いている。  そこに横たわった男は、ぴくりとも動かない。  私が今脱いだ物と同じ、銀色のヘルメットを装着したまま、動かない。  ゴーグル付きのヘルメットからは無数のケーブルが伸びていて、箱と繋がっている。『作動中』を示すランプ類は、全て消えていた。これは、《コロッセオ》からのログアウトを意味している。  戦いは終わったのだ。  だが、彼は目覚めない。
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