序章 運命の歯車

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目が覚めた浮雲一馬は驚きの光景を見た。周りは何もない真っ白な空間にポツンと自分一人だけが立っている。昨日まであったゲームや漫画、テレビも何もない、ただ真っ白な空間である。上も下も右も左もない不思議なこの場所から物語は始まる。 一馬は唖然としながらも、右足を前に、次は左足を前に、そうして歩を進めた。しかし、どこまで歩いても周りは何もない空虚な世界。耳を澄ませても物音1つしない場所にいる者の心には自然と不安という影が歩み寄るものだ。それでもまだ不安ならばいい。不安とは何かそれと対極に位置するものと比較して表面化する。彼の心には友達に囲まれた大学生活の光景でもあるのだろう。それは希望のかけら、運命のかけら。真に考えることすら虚空の彼方に消える絶望よりはずっと不安である方がいい。 突然一馬は走り出した。この何もない真っ白な空間にも出口はきっとあると信じて、これが夢であることを願って。それは根拠のない推論だが、同時に根拠のある現実よりも強い力を秘める。そうして人は前に進むものだ。
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