序章 運命の歯車

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動くというと語弊があるかもしれない。実際には開いたというべきか。わずかに開いた扉が風でゆっくりとその開き具合を増すように、自律的力の干渉を受けた壁はゆっくりと開くように動く。 一馬はその光景を見ていた。その右手は未だに扉に触れた空間的位置のまま。理解できないことが起こると、人はどうしてもその現象を見て理解しようとする。目の前の車が突然爆発したとして、運転士の安否を真っ先に気にする者などいない。それは偽善者の語る理想論でしかない。野次馬に代表されるように、非日常的な事柄を前に人はただ立ち尽くすのみだ。 彼の目がようやく別視点に移動する。扉が開いたことを認識した彼は、その先の世界へと歩を進めることに躊躇いはなかった。いや、正確には今の状況で躊躇うという思考にはたどり着かないと言うべきだろう。彼の後ろに慣れ親しんだ世界はない。ならば先にそれがあることを期待して進む。このあたりは合理的と言えるか。 その先の空間は薄暗い淡い水色の部屋。沖縄の海の中で、水晶でできた潜水艦から外を見るとそんな感じに見えるかもしれない。淡い色の壁には明らかな窓と呼べる部分があり、左右の上部に位置している。そこからは先ほどの白い光がプリズムを通したように差し込んで中を照らしていた。
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