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一馬は周りを見渡しながら進む。それは自身の置かれている状況が移り変わりつつあることを示唆する。
ガキンン・・・ガガガッキン・・・。
金属のかすれる音がする。そう思うのは彼自身だけだ。実際にはずっとしていた。状況を把握することで、その音を聴けるだけの冷静さと意識力が彼に戻ったのである。音のする方向へと目線を向け、その目線に引っ張られるように彼の身体もその方向へと動き出す。とは言ってもその距離は約10メートルといったところか。部屋の奥には石か何かでできた古時計のようなものが壁に埋め込まれている。
「これは・・・時計?」
彼は初めて言葉を発した。どうやら言葉を放つレベルにまでこの空間の異様さに適応してきたらしい。人間の適応力は個体差ががあるが、彼はその中でも早いほうに分類されるとみて間違いない。
古時計には昔ながらの錆びた歯車が組み込まれ、カチ、ギッ、カチと不安定ながらも動いていた。歯車が一つ遅れれば、全体の動作も遅れてしまう。複数の歯車が錆びて動作が鈍くなっている以上、これは時計としての機能を果たしていない。ただの動く機械、そう呼ぶのが自然だ。
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