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それに古時計とは言うが針はない。ただ古時計の形を成している歯車の組み込まれた機械、これこそが正しい呼び名であるかもしれない。
一馬はまた一つの事実を発見する。歯車が組み込まれている外側の石の部分には、先ほどの「扉」と同じような象形文字が刻まれている。やはり文字は数式に似ているが、自身の経験では目にしたことのない文字だ。本来は数字と言いたいところだが数字とは言い切れない、そんな違和感がこみ上げる。だが、これらのことは大切な鍵になる。何故なら、文字とは誰かがこの場にいたことを物語る証拠でもあるからだ。彼以外にもこの場に立ち会い、壁に、石に、その文字を記した誰かがいる。それは一つの希望であり、安堵を許す十分な要因となり得た。
「本当に・・・どこなんだここは・・・。」
口に出しても答える者のいないその問いは、空虚な空間に寂しく響く。
「そうだな。どう話せば分かってくれるかな?」
来るはずのないその答えが空間を蹂躙するわずかな間だけ。
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