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3月、この季節には珍しい長雨。
21時を過ぎた静寂の中、聴こえて来る雨音に混じり、微かに冷たい空気を振動させる声色。
アンナ・チェルニーコは、まだすすり泣いていた。
華奢な体躯を更に一層縮めさせ、膝を抱え込んだ彼女は、鳴り止まない嗚咽に呼応させるように、全身を小刻みに震えさせている。
「ニック……あ、あたし……」
辛うじて声を絞り出したアンナの顔は、どしゃぶりの中を駆けて来たように濡れていた。
「アーニャ、大丈夫。心配いらないよ」
ニコライは、こんな時に落ち着き払っている、自分のその口調に驚いていた。
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