2/10
前へ
/1955ページ
次へ
9月半ばの金曜日。 仕事を終えて、駅に向かう途中でショルダーバッグの中の携帯が鳴ってることに気が付いた。 取りあえず、立ち止まって、携帯を出してみると 『中村彩子』 と表示されてる。 「もしもし」 「もしもし、イトちゃん?今、大丈夫?」 「はい、仕事終わって帰宅途中なんで、大丈夫です。」 「明日、暇?暇だよね?」 どうやら、彩子さんの中で私が土曜日に忙しいっていう選択肢はないらしい。 「暇じゃないって言ったらどうするんですか?」 ちょっと意地悪な質問で返してみる。 「えーっ、忙しいの?」 「いや、忙しくないですけど、なんですか?」 「じゃあ、明日一日、付き合って!!」 「何があるんですか?」 「会ってからのお楽しみ♪11時に名古屋の金時計ね!!」 ツーツーツー。 要件だけ言って切っちゃったよ。 彩子さんらしと言えば彩子さんらしいか。 大学の3歳年上の先輩で、なぜか気に入られてしまってずっと付き合いがある。 大抵、こんな風に突然、会うことになる。 いつものことと言えばいつものこと。 明日は、11時に名古屋に来てって言われたから、休みの日だけど、ちゃんと起きよう。 そう思って、帰宅した。 「お母さん、明日、名古屋に出かけるね。」 「何?デート?」 ニコニコしながら聞いてくる。 「先輩に呼び出された。」 「ふ~ん、わかった。」 デートでないとわかるとそっけない返事。 確かに、年頃の娘に彼氏もいないとなるとそんなものかな。 25歳だもんね。
/1955ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17076人が本棚に入れています
本棚に追加