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…………今日の授業が、終わってしまった。
特に連絡のないHRは、恐ろしいほどあっという間に終わる。普段ならガッツポーズものだが、今日に至ってはなんとも頷けない。
青葉のところ行かないといけないんだよな。でもなぁ。
……そもそも何で?
教材を鞄に詰める動作が遅くなる。
教室はまだ生徒の話し声で賑わっていて、終業からさほど時間が経過していない事にまた少し欝になった。
うん、山代先生のところに行ってからにしよう。
「うちは怪我人、病人以外はお断りなんだがなぁ?」
「…僕と先生の仲じゃないですか」
「つまり保健医と一生徒だな、元気なやつは帰った帰った」
「うー待ってください、帰るの嫌なんですって」
来て早々出入り口に案内するなんて、先生酷い。
「まぁ元から酷い先生だけど」
「口に出てんぞ」
髪の毛をぱしっとはたかれた。
それを無視して近くの椅子に座る。
「部屋に来いって言われたから」
「水谷にか?若いのに盛んなことだな」
「何を言ってるんですか」
「ん」
「ん?……ってこ、こ……!いりませんから!」
「生は流石に教師として見過ごせねえな」
「だから違うって言ってるじゃないですか!」
もう、話が進まない。話す相手を間違えたな。
ここに来た目的も忘れて、一人でプンスカしながら立ち上がると、山代先生の手が僕の頭に乗せられた。
「お前も表情が豊かになって良かったよ。水谷のおかげか?」
「……別に。先生が下ネタばっかり言うからです」
別に、皆とこんなふうに話せてるわけじゃないとか、優しく撫でられるのにちょっと安心するとか、そんなことは絶対に言わないけれど。
気持ちを紛らわせる事ができたから、まぁ、いいだろう。
いくらか自分を見失いそうになりながらも、頭を撫でる手を払い 、保健室を後にしたのだった。
「…教師甲斐のあるやつだなぁ」
男性にしては長い黒髪を、後ろでひとつに縛った山代は、最近鬱陶しくなってきた前髪を掻きあげながら、優しく微笑んだ。
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