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5月。連休明けととともに太陽が存在の主張を増しはじめて、半袖シャツを着る人もだんだん増えてくる頃。
当然、文化祭の開会式ともあれば、男ばかりの全校生徒が一ヶ所に集まるわけで。
「だー暑い!むさ苦しい!なんで1000人近くの人が密集しないきゃなんねーの?誰得?」
「誰得かと言われれば生徒会得というか、潤滑な運営のために必要なことで、つまりお前のご主人のためとも言えるんだけどな、慎太郎。もう少し小さな声で話そうか。というか黙れ」
会長の話を大人しく聞く人、一言も聞き漏らすまいと目を見開いて聞く人など様々いるとはいえ、暑さには弱かった俺の心の声が声帯を震わせてしまった。周囲の目が痛い。会長こっち見んな。よし、熱で頭をやられていたことにしよう。
「ーー各々、体調管理には気をつけて、水分をしっかりーー」
「なぁ友よ、友宏(トモヒロ)さんよ。体調不良につき出番までどこかで休ませてくださいお願いします。あとご主人って主従関係みたいだからやめろ」
「喋るから目立つのわかってんの?目立ちたいの?自分の当番忘れたのか馬鹿。あとお前らの関係はある意味主従だろうが」
ため息をついてジト目でこちらを睨んだ友宏くんは、前を向いて相手をしてくれなくなった。
早く終わらないかなー。
「ーーでは、今日と明日の2日間、節度を守って存分に楽しもう」
あ、会長がお辞儀をしてるということは話が終わったのか。ばっちりジャケットまで着込んでさすが会長。
ぼーっと壇上を眺めていると
「はいはい、みんなお待たせしましたぁ~!長い間立ちっぱなしでお疲れさまです!開会式は以上だから、持ち場につくなり、観覧するなり、ご自由にどうぞ~!解散で~す!」
やっと終わったか。
耳障りのいい、柔らかくて聞き取りやすい声が室内に響いた。惟人様だ。なんとも締まらない終わり方で、惟人様らしい。
まぁまぁ、俺は涼しいところに行こうっと。
綺麗な四角形の隊列が崩れ始め、その波に乗ろうと足を踏み出した瞬間、力強く肩を掴まれた。
「ん?なに、吉武?」
「栗城、自分が開店から昼まで当番ってこと忘れてないか?」
「……え、明日じゃなかったっけ?」
「俺は明日だが、田中とお前は今日だろ」
「嫌だ!暑い!!俺らのクラスってたこ焼きでしょ?絶対無理ー!!」
「……田中、パス」
「吉武の方が力強いっしょ。ほら慎太郎、愛しの惟人様が見てるよー」
「はあ!?嘘つけ!」
「はいはいうそうそ。行こーぜ」
「くっそ友宏のやつ……」
吉武、俺の当番まで把握してたのか。俺でさえ分かってなかったのに。もー絶対汗だくになるやつだし。吉武もういないし。
とりあえず友宏は後でシメる。
惟人様をダシにするのは卑怯だろ。
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