東雲 棗は入部する

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開けられ窓から春の心地よい風が入ってくる。 外からは運動部の連中の元気な掛け声、廊下からは下校する生徒が楽しげに談笑するのが聞こえ、いかにも青春といった雰囲気を醸し出していた。 俺がいるのは職員室に隣接された小さな部屋、通称面談室という所で、進路相談から説教といった幅広い分野で使われる万能な部屋である。 俺はそこにあるソファーにでろんともたれ、心地よい眠気にうとうとしていた。 いっそこのまま眠ってしまおう。 そう思った矢先に一陣の風が流れ込み、一枚の紙をヒラヒラと飛ばした。風がヒラヒラして良いのはスカートだけ、そんなくだらないことを考えつつも俺は紙を拾うべく、立ち上がって追いかける。 紙は何度か俺をかわしながら落下を始め、そして消えた。 「ん?」 不審に思い、俺は普段から斜め下方向に固定してある視線を上げる。 すると肉付きが良く、且つしなやかな足と女性ならではのくびれのある腰、タイトなスーツに身を包むもその存在を主張する大きなバストが目に入った。 が、 そのさらに上を見て後悔した。 かの有名な金剛力士像ばりの鬼面が、真っ直ぐ俺を睨んでいたからだ。 彼女は担任の桐島 奏、またの名を必殺仕事人という。 歴史的にも芸術性的にも恐ろしい先生は俺の襟を鷲掴みにすると、ソファーに放り投げた。
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