東雲 棗は入部する

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先生との関係については否定するが、それでもこの先生はいい人だと思う。 まぁそんな事よりも、今は説教を切り上げさせるのが先だ。 「まぁでも、うちの場合は両親も祖父母も死んでるんで、そこに書いてある家を守る術を学びたいってのは本当なんですがね」 「何故だろう、ニート希望というしょうもない内容なのに責めてはいけない気がしてきた…」 決まった。こう見えて伊達にこの人の説教に1年も付き合ってないからな。 うぐぐっと頭を抱える先生を苦笑混じりに見る。すると、ふと先生は何かを思い出した様に俺を見てきた。 「そういえば東雲、最近は大丈夫なのか?」 「大丈夫って?」 「例の"発作"だ。最近は収まってきたか?」 「あぁ、その話っすか。いや、まだ出ますよ」 言っておくが、俺は喘息や持病持ちではない。 先生の言う発作というのは、俺がある状況に陥った時に起きてしまう一種のアレルギー反応の様なものだ。 その状況というのが、 女子に触れる、または触れられてしまう。 もしそうなった場合、強烈な吐き気と目眩に襲われ、最悪の場合倒れてしまうのだ。 これは過去のある出来事がきっかけで発症し、そのせいで俺は女子を避けるようになった。 そして今ではねくらというあだ名が付けられてしまっている。 そんな俺を、先生は1年の頃から気にかけてくれているのだ。 その点を見ると、やはり桐島先生は優しい。なのにどうして結婚できないのか俺にはわからないわ。 「東雲、今失礼な事を考えていただろ」 「え!?いや別に!!」 声が裏返ってしまった。 どうやら三十路が近づくにつれて結婚という単語に敏感になりすぎたせいか、他人の心まで読めるようになったらしい。三十路怖いわ。 また一瞬見られた気がするが、桐島先生は別に触れることなく話を戻した。 「私なりにいろいろ考えたんだが、お前の発作を治すにはこの方法しかなかった」 「何ですか…?」 瞑目して溜めを作る先生に、俺は思わず身を乗り出す。そして、面談室に再び一陣の風が吹き抜けたと同時に先生は目を見開いた。 「東雲、お前部活に入れ」 「…………は?」 働く事が嫌いで見学希望表に自宅警備を書いたような俺には、先生の部活に入れという言葉の意味が理解できなかった。
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