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終はバイトを終え、いよいよ電車に乗り栃木へと向かった。そこには懐かしい風景が映っていた。
「おぉ~」
[僕は自分の顔がほころんでいくのが分かった。いろんなことを思い出していた。中学生の自分を。それだけでなんか幸せな気分だった。まだ、この時は今夜が違う意味で忘れられない夜になるとは知らなかった。]
「あ、すいません。」
売り子が来たので呼びとめたが、見事にスルーしていった。
終の斜め右の席には、琴美も電車に乗っていた。だが、終とは違いなんだか怯えていた。向かいの席に別の男の人が座った途端サングラスをかけはがきを握り締めた。
背中合わせの席には恵子が座っていた。窓の外を見たがすぐカーテンを閉めた。
2時間近く乗りようやく、栃木駅に到着した。終、琴美、恵子はそれぞれバラバラに降りていった。
「こんな小さな駅だったっけ?」
[僕はこの街で育ったんだ。栃木県栃木市、これといって特色のない街だ。父の勤める会社の工場がこの街にあり、父は赴任してきた。そして兄貴と僕が生まれ、父は工場長にまでなった。でも僕が中3の冬、受験を目の前にした頃工場は閉鎖された。]
「しょうがねぇなー。」
終は街並みを懐かしみながら歩いていた。その中で木綿屋の前まで来ていた。
[僕には特別美味しいとは思えないんだけど、きっと父にはいい思い出に繋がるんだろうと思う。]
終は頼まれていた羊羹を2本買った。
恵子は近くのショッピングセンターのお手洗いでリップを塗って、鏡の前で笑顔の練習をしていた。
誰かが入って来たので、すぐに出た。
「あらー、恵子ちゃんじゃないんかい?」
「どうもー、ご無沙汰してます。」
振り返り笑顔を作って対応した。
「久しぶりじゃないんかい、相変わらず美人さんでねー。」
「どうも。」
「どうしたんかい?あ、家に帰んかい。」
「あ、いえ。クラス会に。」
「あら~、そうなんかい。」
「じゃあ、私そろそろ・・・」
「家の孫がやっぱり栃木二中なんだわ。」
恵子を椅子に座らせて長々と話が始まってしまった。
琴美は、ファミリーレストランでタバコを吸っていた。
「まだ時間あんの?」
「まぁな、でもあんまり時間通りに行くのもなんかカッコわりーだろ。暇みたいで。」
「そうだな。でさーなんで急にクラス会やんの?」
「知らね。」
琴美は同級生だと会話で分かり2人から見えないように背を向けて座りなおした。
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