No.1

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「ほい、下処理すんだからこの肉の調理よろしく」 「おう任せとけ」 「終わったら―――……それは確かアキームのオーダーだったから置いてきて、よろしく」 「…………了解」 「フェイ、そこの冷蔵庫からレモン2個取って。早く」 「………………ほらよ」 「あー俺今手ぇ離せないから、そこのつまみも運んで。ゼクトんとこに」 「っ……てんめぇはそこから1歩でもいいから動きやがれ!!」 開店して数十分もしないうちにフェイが俺に対して怒鳴ってきたわけだが、そこまで怒る必要はないと俺は思う。 とりあえず1歩動いてほしいようなので、レモンと包丁片手にヒョイと横に1歩ずれてみた。 「ほら、1歩動いたぞ。これで満足か?もう我が儘言うなよ?俺は忙しいんだから」 本日渾身のため息をつきながら、元のポジションに戻った俺は料理を再開した。 このバーはサイドメニューを無駄に充実させているため、厨房係は案外重要な仕事だったりする。 でもまぁ、来店客が全員頼むわけでもないから滅多に忙しくないんだけど。 基本スタイルは暇の一言に尽きる仕事だ。 ………が、今日は珍しく注文の入りがいい。 「あのなぁ、俺がため息吐きたいわ!こういう忙しい日くらいちゃんと働けクレア!」 そして万能お手伝いフェイは早々にご立腹の様子。 まぁ理由は分かりきってるんだけどな、面白いからわざと分かってないフリをする。 「忙しい、って言っても俺たち二人だけで回る程度だけどな?それに俺はちゃんと働いてる、ほら」 レモンを掲げて笑って見せれば、フェイは更にわなわなと震え文句を言おうと口を開いた。 でも残念なことに文句の言い方を忘れてしまったようで、口をパクパクするだけにとどまる。 「な?仕事はちゃんとしてるだろう?」 「でもお前の仕事の仕方は、何て言うか、くそっ……何だ、楽しようとしてんじゃんか!」 どうしても言いたい答えがまとまらないらしい。 仕方ないな、お望みの答えでも言ってあげましょう。 「そうだなー……フェイをパシりにした、俺にとって最も効率のよい仕事スタイルとも言える」 「分かってんなら働けっ!!」 全く、今日も変わりなくからかいがいのある奴だ。
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