Opening.

2/13
138人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
人を見て羨ましいと思ったことはあまりない。 もう少し身長が欲しいとか、そういったごく一般的な願望は別問題としてだ。 例えば俺の場合、祖父から譲ってもらった名前が、今じゃ女の名前として使われていることに多少不満がある。 わざわざ改名するほど嫌なわけではないが、もう少し、せめて一目で男だと分かる名前を付けて欲しかった。 だから誰か男の名前を耳にした時は、何となく羨ましいとは感じてしまう。 でもそれだけだ。 名前をある意味先天的なものだとするなら、自分の意思じゃどうしようもないことを羨ましいとは思っても、自分で決めたことに関して後から羨ましいなんて思ったことはない。 そう、例えば人生とか。 俺の両親は知らない間に死んで、その後生きるために汚い仕事を腐るほどやってきた。 でもそれを辛いと思ったことはないし、大通りで楽しそうに帰路につく家族を見ても、羨ましいとは思わない。 流行らないお涙頂戴の映画みたいな境遇だろうが、プライドを殺した仕事だろうが、それを不幸だとは感じない。 自分自身で選んだ選択を、俺は絶対に否定しない。 ―――今、此処にいるという選択だって。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!