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「ああこれ、兄貴がくれたの。十七才の誕生日プレゼントって」
お兄さんは私たちより三つ年上で、昔は三人でよく一緒に遊んでいた。最近は会うこともほとんどないけれど、高校を卒業してからはどこかのガス会社で働いているらしい。ちなみに瑞季の誕生日は四月の二日で、学年一誕生日が早い。
「へえ、よかったね。それ可愛いよ」
「そう? アタシ、こんなに長い財布持ったことないから、まだ使いにくいのよ」
貰ってからもう一ヶ月も経つのにね、と笑って財布を鞄の中にしまった。そして、私がゼリーを一緒に入っていたプラスチックのスプーンですくうのを見て、「元気そうで良かった」と胸を撫で下ろした様子だった。
「連休中はずっと部活なの?」
「そうね。ほとんど毎日遠征だったわ」
「そっかあ。じゃあ、遊んだりできないね」
「あ、でも日曜はたしか午前中だけ体育館で練習だから、午後からなら空いてるわよ」
カラオケでも行こうか、と盛り上がる瑞季を尻目に何も言えないでいると、私の方を見て様子を察したのか、「もしかして先約があるわけ」と唇を尖らせた。
「う、うん。日曜日だけは、どうしても……」
「何があるの」
「え?」
「だから、誰と何の約束をしてるのって訊いてんのよ。まさか、答えられないなんて言わないよね」
その意地悪そうな笑みを見て、これは追求を避けられそうにないな、と一瞬にして悟る。長い付き合いのなかで分かるのは、何もいいことばかりではないのだった。
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