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「ごめんね、わざわざ部活帰りに」
「いいわよ、そんなの。こうやって寄り道させたくないんだったら、早く治しなさいよね」
瑞季はぶっきらぼうにそう言うけれど、その裏にしっかりと、心配してくれている気持ちが隠れている。私と瑞季の仲ならば、容易にそう断言できるのだ。
「もしかしてそれ、差し入れ?」
ローテーブルの上にドサッと置いたコンビニのビニール袋の中には、私の好きなみかんゼリーが見えた。私が体調を崩したときには、いつもそれを持ってきてくれる。
「目ざといわね、その通りよ」
「わあ、ありがとう。瑞季大好き」
「はいはい、私もよ」
溜め息を吐きながらも、私に袋ごと差し出した。手渡す直前に、中から自分の財布だけを救出する。瑞季はいつも、買い物後の袋にそのまま財布を放り込む癖がある。本人が言うには、そうしたら絶対に落とさないし、いちいち鞄にしまう手間が省けるから、ということらしい。
「あれ、財布変わってるね」
彼女の手に渡ったばっかりにこれまで何度も雑な扱いを受けてきた財布は、白色の二つ折りというシンプルなものだったけれど、今取り出したそれは、ヴィヴィアン・ウエストウッドのチェック模様の長財布だった。
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