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「凄いな、女子って二つもハンカチもってるのか」
「んー、どうだろう。私は小学校の時からずっと二枚持ちだけどね」
「こら、そこお、うるさいぞ」
不意に、黒板をカツカツ鳴らして板書をしていた担任が声を上げた。前を見ると、視線がかち合う。間違いなく俺と泉堂に向けて放たれた言葉だ。
「怒られちゃったね」
注意されたというのに、担任が再び黒板と向かい合うと、泉堂は懲りずに声を潜めて笑った。さっきとは違ういたずらっぽいその笑顔に、胸のどこかがかすられたように刺激された。
「ごめんな、俺のせいで」
彼女のように、うまく声を潜められているだろうか。ともすれば喉でつっかえてしまいそうなくらい慎重な勢いで俺は話した。
「いいよ、気にしてないから。それより樋渡くん、どうして今日は遅刻しそうになったの?」
どうやら、まだ泉堂はこの密かなお喋りを終わらせる気はないらしい。また担任に、今度は結構本気で怒られるかもしれないリスクはあるけれど、実のところ俺もまだ話していたかった。それは、綱渡りのような今の状況を楽しみたいから、という理由ではない。単純に、俺は彼女と話していたいんだと願っていることに気づく。
もしかしたら、俺は自分で考えているよりも、隣の席のこの女の子のことを、意識しているのかもしれなかった。
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