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瑞季が帰ってからほどなくして、マナーモードにしていた携帯が机の上で振動した。ベッドからのろのろと抜け出して着信ランプが光っているそれを手に取り、再び布団に潜り込んだ。新規受信メールが五通ほどあった。一時間以上前に届いていたのが、クラスの紗枝や仁美、由梨子らが示し合わせたようにこぞって送ったものと、瑞季が家に来るまでに寄越したものだったけれど、今届いたのは、秋那からだ。早退した私を気遣う内容に加えて、樋渡くんが昼休み明けに早退したことを、わざわざ教えてくれた。
メールを、着信した順番に返していく。瑞季には、あらためてありがとうと送り、最後に秋那への返信に取りかかる。この春、二年になる前に、周りと比べると少し遅れてこのスマートフォンに機種変更したけれど、最近になってようやくタッチ式の打ち方に慣れてきた。前までは、ミスタッチばかりしていてよく仁美たちにからかわれた。
そういえば、樋渡くんはまだ二つ折りの携帯だったっけ。黒色で、角張ったシンプルなデザインは、なんとなく彼に合っている気がするから、できればもう少しの間、今のままでいてほしい。なんて、そんなことを私が考えたところで、どうしようもないのだけれど。
「あっ、」
そんな風に、樋渡くんのことを考えていたからだろうか。パネルの上部に表示された、『メールを送信しました』の文字が現れてすぐに消えたのを見送ってから、私は今の、本当に今このタイミングで、とんでもないことに気がついた。
「時間と場所、まだ決めてなかった……」
そう、私たちは日曜日に会う約束をしたものの、集合場所や、待ち合わせの時間までは、まだ未定のままだった。
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