春嵐

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 これはあくまでも私の推測でしかないのだけれど、秋那は、きっと気付いている。私が、樋渡くんのことを好きだということに。  一度、秋那と夏芽先輩と冬萌と四人で遊びいったとき、私はそこで初めて、樋渡くんが夏芽先輩と二人で部活動をしていることを知った。先輩と二人で部活をしていることは以前に聞いていたけれど、その相手が夏芽先輩とは思わなくて、私は少しショックだったのを覚えている。思えば、あのときにはもう、私は樋渡くんが今と同じように好きだった。当時は実感どころか、自覚すら瑞季にからかわれたときくらいにしかしてなかったけれど、秋那の方は察知していたと思う。その場で、『大丈夫だと思うよ』と耳打ちされた。主語が抜けているその言葉は余計に印象に残っている。ろくに言葉の出なかった私の反応で、おそらく仮定が確信に大きく近づいてしまっただろう。  図らずも伝わってしまった私の気持ちを秋那が理解した上で、樋渡くんのアドレスを聞くとなると、やっぱり恥ずかしい。暗に、好きな人のアドレスを教えて、と言うようのものなのだから。  それでも、今はそんなことをいちいち気にしていられないのが正直なところだ。私は覚悟を決めて、秋那への返信メールをやはりまだぎこちないフリック入力で打ち込んでいった。
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