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「まあ、察しの通り、寝坊だよ」
ばか正直に話すのもどうかと思うが、取り繕う言葉も特には思い浮かばなかった。
「ふうん、何だか普通すぎてつまんないな」
「別に、泉堂を楽しませるためにあんな時間に飛び起きたわけじゃないからな」
泉堂が口元を押さえて、声を殺して笑う。こいつは、意識してはいないんだろうけれど時々本当にはっきりとものを言う。ともすれば毒舌とも思えるくらいに、小さな口から飛び出る言葉には油断ならないものがあった。
「でもよかったよ。ちゃんと来てくれて」
そして、何よりこの泉堂瑚春は、とても可愛いのだ。有り体な表現ではあるけれど、本当に”可愛い”のだからしょうがない。
今だって、人目を憚りながらこっそり笑いかけてくれるその表情に、いとも簡単に俺の心は撃ち抜かれる。笑顔だけじゃない。授業中にこっそり盗み見る表情は、いつも色鮮やかな空気をまとっていて、俺を引き付ける。そのせいで、盗み見ているはずなのにばっちりと目があってしまったりするのだから困る。そんなケースはまだ数えるほどしかないけれど、これから先に席替えが行われるまでに、きっと懲りずにこっそり横目に泉堂を窺って、うっかり目があってしまうことも増えるだろう。
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