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幼なじみに連れ出された外は、春とは言えど、まだ風が冷たかった。上着を置いてきてしまったのを悔やむが、今更取りに行くのもなんだかなと思う。まぁ、話ぐらい直ぐにすむだろう。
両腕を擦りながら、ちゃっかり上着を着てきた、いつも通りの笑顔の幼なじみにため息をついてから口を開く。
「祐介(ユウスケ)…、あれ程名前を呼ぶなって言っただろ。」
女の子みたいな名前で、コンプレックスを抱いていることを知っているこの幼なじみには、他人がいる場所では呼ぶなと言っているのに。
「しゃーないやん。そうでもせな、お前話聞かんかったやろ。…なぁ、なんで天城にあないなこと言ったん?」
「……アイツもどうせすぐ辞める、今までの奴等と一緒だ。」
「去年かて、何もこっちから言わんかったやん。天城以外の中にも、辞めそうな奴おるで。せやのに、なんで、わざわざ天城にあないなこと言ったん?」
「……。」
コイツには昔から嘘や隠し事は出来ない。だけど、そう簡単に言えることでもない。俯いて、黙ったままの俺を祐介が覗きこんだ。
「なんで黙んの。ほら、顔上げてや。志織責めてる訳ちゃうて。」
いつもの口調で頭をよしよしと子供をあやすように撫でてくる。
俺より高い身長の祐介はよく俺の頭を撫でる。…いや、身長は関係ない。昔からよく、俺が拗ねたり喧嘩したときに撫でる。馬鹿にされてるみたいで嫌悪感を感じることもあるが、結局は嫌悪感をも越える謎の安心感に黙らされ、いつも本音が出てしまう。
「…アイツ、死ぬぞ。」
「は?」
祐介の目を見て伝えると、祐介からはいつもの笑顔が消えた。
俺は祐介から目を反らすと、しゃがみこんで、真っ黒なアスファルトをただただ見つめた。
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