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どこへ行くあても無く
ただ、ただ、走らせた車は
気づけば思い出の海に着いていた。
俺に背を向け
ずっと横を向いている香奈からは
静かに涙している気配が漂っている。
今日のために
琴子ちゃんと選んだと言っていた
胸下で切り替えの入った女の子らしい
ネイビーのカットソーが
この海には不似合いだな、
なんて俺は思った。
ようやく少し気持ちの落ち着いた俺は
「ごめん」
短く香奈に謝った。
「・・・ううん。
篤のお母さんが言ったことは
全部、現実的な問題で本当の事だから・・・」
「でも・・・どうにもならない事で
あんな風に人を傷つけるのって
俺は、間違いだと思う」
悔しくて・・・歯がゆくて・・・
どこかに、この苛立ちを投げ出したくてハンドルに顔を埋めた俺は
夜の海に向かって
思いっ切りクラクションを鳴らした。
非日常的な海岸に
間抜けな音が響き渡る。
「何か、ダサいな・・・」
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