すすんじゃったそのさき

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 カフェの隅っこで参考書を広げ、ぼーっとしている。大学入学して一カ月が経った。あれからけいととものぶとも会っていない。私はのぶに振られて、向こう一年は恋愛をしないと決めていたのに気になる人が出来てしまった。  「ねー!全然進んでないじゃん!」  両手にコーヒーを持って目の前に立っているのは玲だ。偶然大学が近場だったから、たまにこうして会っている。  「小テストがあるっていうから監視してるのに目を離したらこれだもんね!」  はい、とコーヒーをくれる。  「ありがとう~いくら?」  「ひとつ300円です!」  「じゃあ今日は監視料ということで」  600円を玲に渡す。いいのー?と受け取るその指先にはきれいにネイルアートが施されていた。これが華の女子大生か、と化粧っ気もない自分が少し恥ずかしくなった。  「で、非道なのぶくんの後釜はどんな人?!」  急に本題をぶっ込んできたので、熱々のコーヒーを吹き出してしまった。  「いや、後釜って」  「だって気になるじゃん。同級生? 先輩?」  先輩、ぼそっと答える。年上かあ、と玲はニヤニヤした。興味があるとなると相手の話を聞かないのが玲の良くはないところだと思う。その後も勉強の監視どころか根掘り葉掘りたくさん聞かれた。  「同じサークルで、見た目が好みで。つまり一目惚れってこと?」  「ねえ、聞き出した割にまとめ方が雑じゃない?」  「ちゅんはあんまり面食いじゃないからなあ」  玲はもう冷えてしまったコーヒーを手元でくるくる回す。のぶに振られたことは、前に会ったとき話した。玲は綺麗な漆黒の瞳を見開いて驚いたけど、深くは聞いてこなかった。一人で辛かったね、とひと言くれた。玲は優しい。でも、けいとを泊めたことはずっと内緒にしておこうと思った。 『お土産? けいとにって、来てるよね?』 『うん、でも交換しようって約束したんだよね』  高校生の修学旅行先で、たしかに玲はそう言っていた。そのお土産の交換というものが二人にとってどういう意味なのかは当時もいまもあまり深く考えたくないと思っている。
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