すすむということ

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 15分ほどして部屋に戻ると、ちゅんはすっと立ち上がった。電話は終わったようだ。 「どうだった?」 「あー、『いいかげんな気持ちではなかった』って言ってた。でも......」  ちゅんはこっちを見ない。 「でも?」 「振られちゃった」  よかったな、という言葉を用意していたのに肩すかしをくらった。 「美緒のことが好きなんだってさ」  美緒は隣のクラスで、たしかにのぶと仲は良かったが。そういうことだったのか。 「まじか」 「うん」 「あいつ、意外といい加減なやつだな」 「うん」 「俺にしとけばよかったんじゃね」 「うん」 「ほんと見る目ねえな」 「うん。ねえ、けいと、怒ってるの?」 「え、」  2本目の缶がパキッと音をたてる。 「俺が? なんで?」 「その、早口だし、どこ見てるか分からない目してるし、誰かを悪く言うなんて珍しいよ。それに」  言いづらそうに、ちゅんは続けた。 「()にしとけばなんて……」  最後の10文字を聞くか聞かないか、俺は耳のあたりがカッと熱くなり、目の前の彼女を覆うように抱きしめていた。  ぐるぐる渦を巻く感情を抑える。 ――まだだめだ、今はだめだ、いや、いつかも分からないんだから今でいいよ、いやよくない。  「けいと、い、痛い」  つい抱きしめる腕に力が入ってしまい、よろけたちゅんは足元に転がっていた缶を蹴った。  「ああ、ごめん」  ちゅんが固まっているので、さっと離す。戸惑っているようにみえたが、一瞬だった。  すとんと床に座り、裾を引っ張って(うなが)す。そうして隣に座った俺の頬を軽くつまみ「チャラいなあ」とつぶやいてにやっとした。つられて微笑むと、ちゅんは電池が切れたかのように肩に寄りかかってきた。そのまま胸に顔をうずめ、しばらく泣いていた。  「ごめん、」  「謝るなよ」  これでおあいこだ。俺は静かにちゅんの細い肩を抱き、2本目の炭酸飲料を静かに飲んだ。  抱きしめたあとの、にやっとしたちゅんのきれいに揺れていた瞳のことを考えながら。
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