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皆さんは、腐れ縁というものをご存じだろうか。ただ、縁があるという相手を。
「ん」
声とともに、いきなり目の前の焦点が合わなくなった。
「……え、ありがとう」
ワンテンポ遅れて押し付けられた紙パックのリンゴジュースを手に取ると、校舎の隅っこで寝転がっている私の横に、彼は座った。
ぷしゅ、っといい音を立ててその見えない液体を一気にのどに流し込む。
「よいしょっと」
私も起き上り、もらったジュースを音を立てて吸い込む。
ちゅう、という奇妙な音を楽しみながら、缶を片手に一息ついている彼の喉元を見る。
「今日なんかあったっけ」
その問いかけに、私はちゅぱ、っと音を立ててストローを離す。
「いや、ないんじゃない?」
「そう」
短い会話の後、私はまたちゅーっと音を立て、彼は残っていた液体すべてを一気にあおった。
けいと。
クラスの中心的存在とどうして私が仲良くなったのか。もう忘れてしまった。
彼の喉元はなぜか気になる。変な言い方をすると”そそられる”のだ。身体はずっと細身なのに、喉元だけは別格。他の人たちは、気づいてるのだろうか。
「なあ、ちゅん」
「ん?」
けいとは校庭を見つめたまま、私は彼の喉元を見たまま答える。
「もうすぐ卒業だな」
そうだね、ぽつりと返事をした。ストローを噛み、伸ばしていた脚を抱えて膝の上に顎を乗せる。
「で、なに?」
「いや。今日は、なんだか濁ってんな」
彼の視線を追うと、そこにはもう沈みかけた夕日と、昼間から空を覆うグレーのベールがあった。
「今まで色々あったな」
「あったねー」
「ちゅん、あのさ、俺」
――ガサガサッ
はっとして振り返る。
「どした、ちゅん」
確かに物音がしたのに、そこには誰もいなかった。
「ううん、なんでもない。ごめん何か言おうとしてたよね?」
すると彼は私のほうに向きなおり、うつむいたり空を仰いだり。妙に静かな時間が流れる。
「ね、さっきさ、後ろのほうに」
耐え切れず、話し始めようとした時、
~♪
聞き慣れた鼻歌が近づいてきた。
「おーい、そこのお二人さーんっと」
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