いっしょにいたい

2/7
前へ
/23ページ
次へ
 皆さんは、腐れ縁というものをご存じだろうか。ただ、縁があるという相手を。 「ん」  声とともに、いきなり目の前の焦点が合わなくなった。 「……え、ありがとう」  ワンテンポ遅れて押し付けられた紙パックのリンゴジュースを手に取ると、校舎の隅っこで寝転がっている私の横に、彼は座った。  ぷしゅ、っといい音を立ててその見えない液体を一気にのどに流し込む。 「よいしょっと」  私も起き上り、もらったジュースを音を立てて吸い込む。  ちゅう、という奇妙な音を楽しみながら、缶を片手に一息ついている彼の喉元を見る。 「今日なんかあったっけ」  その問いかけに、私はちゅぱ、っと音を立ててストローを離す。 「いや、ないんじゃない?」 「そう」  短い会話の後、私はまたちゅーっと音を立て、彼は残っていた液体すべてを一気にあおった。  けいと。  クラスの中心的存在とどうして私が仲良くなったのか。もう忘れてしまった。  彼の喉元はなぜか気になる。変な言い方をすると”そそられる”のだ。身体はずっと細身なのに、喉元だけは別格。他の人たちは、気づいてるのだろうか。 「なあ、ちゅん」 「ん?」  けいとは校庭を見つめたまま、私は彼の喉元を見たまま答える。 「もうすぐ卒業だな」  そうだね、ぽつりと返事をした。ストローを噛み、伸ばしていた脚を抱えて膝の上に顎を乗せる。 「で、なに?」 「いや。今日は、なんだか濁ってんな」  彼の視線を追うと、そこにはもう沈みかけた夕日と、昼間から空を覆うグレーのベールがあった。 「今まで色々あったな」 「あったねー」 「ちゅん、あのさ、俺」 ――ガサガサッ  はっとして振り返る。 「どした、ちゅん」  確かに物音がしたのに、そこには誰もいなかった。 「ううん、なんでもない。ごめん何か言おうとしてたよね?」  すると彼は私のほうに向きなおり、うつむいたり空を仰いだり。妙に静かな時間が流れる。 「ね、さっきさ、後ろのほうに」  耐え切れず、話し始めようとした時、 ~♪  聞き慣れた鼻歌が近づいてきた。 「おーい、そこのお二人さーんっと」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加