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二人になってしまった。
砂埃で霞んだ向こう側に小さな影がいくつも動く。同じ男だが、よくこんな中サッカーする気になるな。汚い。
「今度ね、二人で会うんだ」
つぶした紙パックを弄びながら、ちゅんは唐突に告げた。影の中のたった一人をボーっと見つめている。これまでも"こういう話"は何度も聞いてきた。
ちゅんはわかりやすい。ポーカー気取ってるけど、感情が動くといつも黒目が揺れる。そのゆらゆら動く瞳が枯渇していた俺にくすぐったい感じをくれた。だから、それに気づいてから――いや、今考えるのはやめよう。
ちゅんに気づかれないように、ふるふると軽く首を振って思考を振り払う。
好きな子にいじわる、という子供じみたことじゃない。もっと気持ち悪い話だ。慣れた気がしなくもないが、ちゅんには絶対気付かれたくない。
「デートか」
小さい声でつぶやくように聞いてみる。
「違うよ、そんな」
言いながらふっと息を漏らし、恥ずかしげに笑顔をこぼす。曇っているのに、ちゅんの顔は鮮やかに上気していた。
綺麗だとおもった。
期待しているのに、いたずらそうな、悲しそうな、意外なその瞳が。俺がさせた顔じゃないのに。
「おい」
ん、と手を出す。
「あ、ありがと」
口角を上げてつぶれた紙パックを手渡すちゅん。ゴミ箱に向かうときも、ちゅんの顔が頭を離れない。
パキ、という音で、無意識に缶を握りしめていたことに気付く。ゆっくりと手をはがし、もう片方の手でゴミ箱につぶれた紙パックを捨てる。また、ちゅんの横顔が浮かぶ。
――綺麗だ。でも、
不意に何かがこみあげてきて、手からはがした缶を、思い切り壁に投げつけた。
綺麗ってなんだよ。
想いなんて、みんな、綺麗じゃねーよ。
――カラカラカラ
校庭からわいわいと声がこだましてくる。こつんと足先に当たった、ひしゃげた缶が目に入った。俺は、自分が肩で息をしていることに気が付いた。
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