case3.庶務

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「ありがとうございます。 でも俺もう少し残るつもりなんで」 仕事が済んでも、時々生徒会室で読書をさせてもらったりしている。 門限のギリギリまで居ても誰も文句を言わずにいてくれているのは、 同室者の騒がしい俺に対する配慮だろう。 一応生徒会メンバーでもあるけれど、庶務である俺は一人部屋では無い。 それは、他の成績優秀者やなんかに使ってもらった方がいい特権だと、俺自身が思っているからだ。 同室者だって、多少うるさく思う位で、性格自体には問題ないし。 ただ時々、静かに本が読みたいだけだ。 きっと今日もそうなのだと先生は思っているだろう。 本当は違うのだけれど、今はまだ言わないでおこうと思う。 そして先生と2人、生徒会室へ戻る。 中へ入ると、予想通りに副会長は例の先輩にお持ち帰りされたようで、誰も居なかった。 今日は会長も書記先輩も会計も、すでに仕事を終わらせている。 そうすると生徒会室には俺と先生以外の誰も居なく、いつもよりも静かだ。 ……普通教室のある校舎や部室棟と違って、この特別校舎は人気が少ない。 だからきっと、密会場所には最適だ。 許可さえもらえば、他の空いている会議室なんかも自由に使えるし。 やましい考えがあると知られなければ、誰にも罰せられる事は無い。 そんな事も、実は特権の一つなんじゃないかと、考えているのは俺だけでは無いと思う。 「……よし、後はもう閉めてもいいんだよな?」 書類をまとめながら教室の施錠を確認してくる先生も、きっとその一人だ。 校内中を毎日走り回っている俺は、きっと他の生徒よりも多くを知っている。 「はい、お疲れ様でした」 お疲れ、と返す先生の笑みに、先ほどよりも色気のような物を感じるのは、俺の見間違いでは無いはずだ。 この後にはきっと それがさらに溢れかえる事になるのも。 この人も、俺と同じように放課後を心待ちにしていたのだろう。 ソワソワしながら二人きりになれるのを待つ相手。 それはもちろん俺――では無い。 「それじゃ鍵、よろしくな」 また明日。と、 施錠を俺に任せ、先生は少々浮き足立って生徒会室を後にする。 「はい、さようなら」 ――そして俺が待つのも、先生ではない。
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