case3.庶務

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「崎野先輩、今日はこの企画書を見て欲しいんですが」 さきの、とそれは俺の名字だ。 「うん、いいよ」 もう仕事は終わったし、と告げると灰谷はホッとした顔で礼を言った。 彼の持つ紙を受け取り、目を通していく。 ……と、ジッと俺を見つめる視線が突き刺さる。 これはいつもの事だ。 というより、このやりとりがいつもの事だ。 俺が何か口を出す事も無い出来の書類を持って灰谷が生徒会室へやってくる。 内容が完璧なのもいつもの事。 だから2人以外の誰も、灰谷が必要以上に、頻繁にここを訪れているとは思っていないと思う。 ……それを一応まじめに読む俺を、 灰谷がまるで待てをさせられている犬のように真剣に見据える。 最後の文字を認識したら、俺は彼に声をかける。 「よく出来てる。例年通りのに新しいルールを加えたんだね。 みんな盛り上がるだろうし、安全面も大丈夫だと思うよ」 よくできました。 クシャリと髪を撫でると、灰谷の顔も笑みに歪む。 「はい!ありがとうございます!崎野さん!」 本当に嬉しそうに言う彼に……お気づきだろうか。 先輩、崎野先輩、崎野さん。 段々と俺への呼称が親しげに変わっていっている事に。 そしてその度に、彼は俺の様子を窺う。 俺は小さく笑みをこぼし、頭にあった手を頬へを滑らせた。 仕事を頑張ったごほうびを待ちかねるのは果たして、俺なのか彼なのか。
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