case4.書記

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ツッコんだ後、2人はまた俺たちに視線を戻した。 「さっきコイツ、好きな奴はお前だって言ってただろ」 会長に何かを言っていた、その時の事だと思う。 「だから2人は付き合ってんだと思ったんだけど」 違うのか?と副委員長が尋ねる。 「さっきのは俺が勝手にしただけです」 ごめん、とまた拓斗は俺に謝る。 「ああ、じゃあどさくさ紛れに告白したって事ですね!よっしゃ!」 川添くんは何故かガッツポーズをとっている。 穏やかそうな見た目とは裏腹に、ちょくちょくテンションが高い人だ。 「で、どうするんです?!」 キラキラと瞳を輝かせ、川添君が俺にふってくる。 「……え、と……」 数十秒前に記憶を戻す。 “好きな奴はお前” 俺に向けられたその言葉の、お前はつまり俺のことで。 その前の“コイツ”それはつまり拓斗のことで。 そしてどさくさ紛れに告白……。 さっき拓斗が俺にキスをした後。 俺には動揺と周りの騒音で聞こえなかったが、どうやら拓斗は俺が好きだと言っていたらしい。 そしてどうするか、と。 ……。 …………。 ………………どうしようか。 さっき拓斗の特異体質に納得する際、認めなければいけない事があると思った。 俺が彼を好きな事。 そんなのは前々から知っていた。 喋らなくとも思った事が伝わる。 だからこそ、言葉で伝えたいと思った。 俺が何かを話すと、彼の口元は少しゆるむ。 相手の声が聴きたい。自分がそう思うように彼も感じてくれているからなのなら、いいのに。 そう思って、本当に少しだけれど、彼に対しては以前よりも口数が増えたと思う。 声が聴きたい、色んな表情を見たい。 それに触れたいとかが加わるまで、そう時間はかからなかった。 でも、俺が彼を好きになったのが、彼の体質のせいだったのなら。 なら、本当は、俺は彼をどう思っているのだろう。 もしかすると恋愛感情なんて持ち合わせていないのかもしれない。 それか、友人として好きだと思うものが増幅された結果だとか。 だとすれば、彼が俺を好いていてくれても、本当ではないのに俺もだと返す。 それこそ彼に対して悪いことになるんじゃないだろうか。 だってはじめは、本当に友人として好きだと思った。今とは違う。 だから、 「ご、ごめんなさい」 風紀委員室に沈黙が流れた。
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