case4.書記

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「ど、ドンマイ!」 副委員長の声が、長らく続いていた沈黙を破った。 彼に背中を叩かれた拓斗は俯いていて、表情が見えない。 少しして上げられた顔は、困ったように笑っていた。 「うん、だよな。ゴメンな」 笑ったまま再び謝られる。 「本当ゴメン。無理やりキスとかして」 気色悪かっただろ。と謝罪を受けても、こっちはこっちでゴメンとしか言いようがない。 嫌だなんて思わなかった。今でもそう。 好きだ、けれど本物じゃないならこれは隠しておくしかない。だからごめん。ごめんなさい。 「……大丈夫」 何がだ。と自分でも思うがそれ以外に言葉が見つからない。 そのまま沈黙を続けながらも内心は後悔したり、本当はどうなのか知ろうと自問自答を繰り返している。 いくら問いただしても俺は彼を好きだとしか言わない。答えは見つからない。 その間にも周りは話を進めていた。 「じゃあ、そういう事で」 誰が言ったのか思い出せない一言で、意識を周りに向ける。 短い間に、どうやら拓斗と俺の部屋が別れる事が決まっていたみたいだ。 「俺が移るから、真之は何にも気にしないで」 人数は変わらないから、隣の開いている部屋に彼が移る。 本来2人部屋を、1人が使う。のが2部屋。 そんなの色々と無駄なんじゃないだろうか。 各部屋に冷暖房完備だし冷蔵庫とかあるし。 だから、そんな事しなくていい。そう言おうとした。 「俺、は、このままで……」 「いや、俺が困るよ。真之に迷惑かけるのは」 会長とか会長とか会長とかの事もあるし。と3度も拓斗が繰り返した。 ……も、と言う事は他にもあるからという事か。 それはさっきまでの話の中から察するに、俺に好意を持っているから。気持ち悪いだろうという感じだろうか。 ちらほら入ってきていた拓斗の声はそんな事をしゃべっていた。 そんな事は無い。 せめてそれだけでも告げようとするが、口を開くタイミングを掴めない。
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