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「え、っと……」
どこから話すべきなのだろう。
目の前の彼は穏やかな顔をしているが、手がワキワキと動いていて、下手するとすぐにでも飛び出していき、何か行動を起こしてしまいそうだ。
まずは拓斗と同室のままでも俺は何も構わない、という弁解か。
「俺、は、拓斗に好かれていても、その、今のままでも全然、何も、困らない」
「うんうんうん!相思相愛なんですからね!そりゃね!」
川添くんの瞳の輝きが増した。
「誤解を、解き、たい」
鈍い光を宿し続け、俺の言葉の続きを待つ。組まれた両手は互いに抑え込んでいるようでわなわなと震えている。どうやら静かに聞いてもらえるようだが、それでも表情は変わらないのが何だか怖い。
「でも、俺じゃ、どう言ったら、いつ、言えばいいかも解らなくなって……」
「あー、ねー」
さっきまでの様子を思い出しているらしく、生暖かい視線を送られた。
「でもあれだけ表情を読み取れるのだったら、大した誤解もされてないんじゃないですか?パッと行って言っちゃえば大丈夫ですよ」
彼は軽く言うが、それが全然簡単じゃなくて大丈夫じゃないから、俺は困っているんだ。
きっと拓斗は今頃すでに荷物をまとめるのに忙しくなっている事だろう。
そんなところで、俺が思っている事を全て聞く時間をとってくれるだろうか。
さっきのように遮って、そしてもう二度と弁解の機会はないかもしれない。
「……………………」
「あーもー、もどかしいですね!You好きって言っちゃいなよ!!」
本当にいきなり、テンションが高くなる。
それに少し驚きながらも、沈黙が破られ、しかも俺の話すべき事に関わる言葉だったことにホッとした。
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