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「じゃあ俺、彼を呼んできますね」
ちょっとお留守番お願いできますか?と俺に尋ね、頷くと彼はドアを開けた。
「あの、」
声をかけると彼は振り向く。
「あり、がとう」
二人きりでなくなったら、川添くんに礼を言うタイミングも掴めなそうだ。
だから先に、言っておこう。
「いえ、こちらこそ、ごちになります」
にまーと笑い、そう言い残し小走りで彼は駆けて行った。
閉め忘れられたドアを閉じ、ソファーに戻り拓斗を連れてきてもらうのを待つ。
出来る限り心を落ち着かせて二人の到着を待っていると、ざわざわとした数人の声と足音が聞こえてきた。
何か言い争いをしているのか、怒っているような声に聞き覚えがあった――川添くんが声を荒げているようだ。
騒がしい生徒たちの間に入ってきた時も、彼は落ち着いた態度を保っていたのに。
楽しそうにテンションが上がるのは先ほど何度も見たが、言葉を紡ぐのが遅い俺に対する態度にもイラつきは見られなかった。
そんな彼を怒らせるなんて、一体何があったんだろうか。俺は一気に不安になった。
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