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「ごめん真之」
ドアが開くと川添くんの怒声、それに対する誰か――これは生徒集会なんかで聞いた事があるから恐らく生徒会の誰かだろう――の罵声がクリアに聞こえてきた。
その中から拓斗の謝罪の言葉が俺に向けて告げられる。
……そのごめんは、何に対するものなのだろうか。
さっきまでの不安がさらに膨れ上がった。
しかし何の行動にも移せず、ただ次の展開を待つ。
「部屋、真之も移らなきゃいけなくなっちゃった」
面倒かけるけど、と風紀委員室内へと入ってきた拓斗が言った。
近づいて見ると彼の肩には何か白いものが付いている。
その付着物は頭にもあるようで、動くたびに髪からパラパラと粉のようなものが落ちてきた。
「そうなんです!風紀が居ながらスミマセン!生徒会の人らが家具やら壁紙やら破壊してくれちゃって!」
「ちょっと!!生徒会、じゃなくてアレやったの会長だけじゃん!」
次に入ってきた、怒りが収まらぬ様子の川添くんが謝り、生徒会の人が反発する。
彼は川添くんより背が低いようで、こちらからは彼の姿が見えない。
しかしその後ろからまた一人顔を出してきた。この人は副会長だ。という事は見えない人は会計か。
「そうですよ、僕らはただ拓斗を純粋に愛しているだけです。あんな野蛮な事……」
副会長は線は細いが、結構な長身だ。
「あー、川添。そいつら食い止めるのはいいけど、俺らも入れないから」
副会長のそのまた後ろからは副委員長が顔を覗かせ、川添くんにドアの前から動くよう促した。
どうやら声を荒げていたのは生徒会と、川添くんを含む数人の風紀委員だけだったらしい。
他の人は割と落ち着いた様子で、中には書類とにらみ合いため息を吐きつつ入室してきた人もいた。
……この学園の生徒会メンバーは皆整った顔を持っている。
入ってきた途端に拓斗に抱き付こうとし、風紀の人に捕まえられている2人を見て改めて思い知った。
副会長は……小さい頃に読んでもらった絵本に出てくる王子様みたいな人だと思う。
そして会計は、ボーイッシュな少女だと言われても通用する見た目をしている。
そんな人たちが拓斗を好きだと言っている。愛していると。
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