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「あぁ…眠い」
気付けば何の気なしにふと呟いていた。
俺の名前は山神康平(やまがみこうへい)。
妹の名前は梓(あずさ)。
俺の通う高校は私立凌訝(りょうが)高等学校という。
自分の住むこの辺りでは、これといって有名な訳ではない学校。
今日はそんな辛気臭い学校の入学式なのだ。
妹は中学校の新学期を心待ちにし早めに起き、そそくさと学校に向かったらしい。
怠さが残る身体をベッドから持ち上げ、静けさの蔓延した空間にふと目を遣りもの思いに更けた。
あれは俺たちが小さかった頃の話―――。
四人で平和に暮らしていたある日、両親は何者かに殺された。
否、『何か』と言うのが正しいだろうか。
不可解なそれは、子どもの俺には理解し難く形容し難いものだった。
殺害される瞬間を見たのは自分だけ。
その光景を梓に伝える事が出来る訳もなかった―――。
そんな事を知るよしも無い妹は、俺がその場でついた見え透いた嘘を信じ両親が海外転勤に行っていると思っている。
今更本当の事が言える筈もなく、その場を乗り切るためについた軽い嘘が自分の心に大きなしこりとなって残り続けているのだ。
ふとそのことを考え、申し訳無いと言う気持ちが胸を突く。
だがいつまでも消える事の無い自責の念に苛まれようとも何も変わらないと思い、ふと我に返り壁にかけてある時計を見る。
まだ家を出るまでには時間はあるが、少し足早に一階の台所を目指して歩き始めていた。
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