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「人間の行動を何かのスイッチにできるリモコン?」
なんだそりゃ、とあたしは出された四ッ谷サイダー梅味を堪能しながら、梯子の上で作業するカトリを見上げた。
埃っぽいだだっ広い研究所。カトリは今3mの洗濯バサミを遊び心で作っていた。誰得なのかはあたしにもわからなかった。
「ああ、例えば今君がサイダーを飲んでいるだろう、ユキ。その“行動”を“梯子”のスイッチにしてみよう。」
カトリは白衣のポケットから何やら銀色の薄い箱のようなものを取り出した。Ipodみたいだ、と思った。
カトリはそれをあたしに向けてカチッとやった。
なんだか赤い光が見えた。
「さぁ、一口飲んでみな。」
あたしは言われたとおりにした。すると、
ウィイイイン
「お、おおお!」
梯子が下がった、というより縮んだと言った方が的確かもしれない。梯子はあたしがサイダーでのどを鳴らした瞬間ガクンと地面に着いた。
「驚いたろう、雨に濡れた自転車が錆びているのを見て思いついたんだ。まぁ、これはそんな物理的法則に縛られず、何にだって使えるんだがね。」
カトリが梯子の上からドヤ顔で降りてきた。
「頭の中で想像しながら、対象に向けてスイッチをカチリとやるだけでいいんだ。授業中、ノートに消しゴムをかけるたび、嫌いな先生の髪の毛を100本消してやるとか、CDを一回聴くごとに視力がよくなるだとか。」
「なんか縛られてなさ過ぎていろいろ不安になるけど大丈夫なの?」
「ああ、犯罪になるようなことはできないしな。だから親父がたばこを一本吸うごとに心臓の血管が一本詰まる、とかはいくらスイッチを押してもリモコンに自動ロックがかかる。だがね……」
カトリは意味深に言葉を切った。
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