君という女性。

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「名前……。 俺の名前は……」 思い出せない。 ……俺は何者だ? 俺は……。 俺は……。 俺は……。 「……記憶喪失ですね。 一時的なものかどうか検査してみないとわかりませんが」 重々しく医者は口を開いた。 「記憶喪失! 嘘よね? ねぇ、あたしが誰かわかる? わかるよね?」 俺の肩を握り女性は必死の形相で尋ねてきた。 俺は首を横にふる。 「ありえないわ……」 膝から崩れ落ち、女性は泣き出した。 泣きたいのはこっちだ。 何で俺はこんな目にあっているんだよ。 しかし、記憶がすっぽりとないのも何だか妙な感覚である。 「……では何かありましたら呼んでください」 俺が頭を抱えている間に医者の話が終わっていた。 さて、これからどうしたものか。 唯一わかるのはこの女性が俺の知り合いであるという事だ。 だが、こんだけ大きな事故なのにどうして彼女しかいないんだ? 俺の家族らしき人は全く見当たらない……。 「あのさ……」 暫くして俺は重い口を開いた。 「ん?」 綺麗な瞳で彼女は俺を見る。 「……俺の家族は?」 名前より先に家族が気になった。 何故俺は彼女と二人きりなのだろうか。
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