君という女性。

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「あたしが家族だよ」 寂しげに彼女は笑った。 「……君が家族?」 彼女は俺の家族? 姉? 妹? いや、何かが違う。 「みたいなもんかな。 あたし達は施設で育ったの。 兄妹のようにね」 そう言って彼女は俺の手を握る。 手は小さいけど何だか大きく感じた。 「そうだったのか。 迷惑かけて悪かったな」 俺は彼女に詫びる。 「本当に……。 本当に何も覚えてないの?」 俺の手をギュッと握り、彼女は俺を見る。 「……あぁ。 何でこうなったかさっぱりわからん。 悪いな……」 思い出せない。 俺が何者かさえわからない。 でも不思議と不安ではない。 「今日はもう休んだ方がいいわ」 彼女は俺の背中をさすり微笑んだ。 その笑顔は何処となく陰りがあるように見えた。 「そうだね。 おやすみ……」 名前もわからない女性に俺はおやすみの挨拶をする。 「おやすみ……」 まぶたを閉じ彼女の心地好い声が頭に残った。 目が覚めたら……。 彼女の事思い出したいな……。 俺は……。 俺は大切な『何か』を忘れているような気がする。 大切な『何か』を……。
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