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「……彼女?」
ぽつんとこぼれ落ちた。
松本さんが、お兄ちゃんの彼女、付き合ってる人、お兄ちゃんが好きな人。
「……あれ?」
ポロポロと涙がこぼれ落ちていく、手で拭うけれど、止まらなかった。
「おい、歩?」
お兄ちゃんが、心配そうに私の顔を見ようとするけれど、激しく首を横に振って。
「来ないで」
差し出された手を、お兄ちゃんの優しさを、初めて拒絶した瞬間だった。
これで、いいと思った、手を取ったら、つないでしまったらきっと甘えてしまうから、お兄ちゃんの日常なんだ、私は非日常という名の異物、異物はいらない、だから、だから……
「よしよし、いい子、いい子」
トンっと、何かが私を、覆い優しく撫でてくれていた。
「茜[アカネ]、俺達の問題なんだ」
「シスコン一くんの言うことなんて聞かない、お姉さんは歩ちゃんといちゃいちゃするから、出て行って」
松本茜さんは、私を抱きしめつつ言う、子供っぽく、いーっと舌を出して。
「そうかよ、いつの間にか仲良しなったんだな、勝手にしろ」
ピシャン!! 扉が乱暴に閉められ、お兄ちゃんが出て行く。
「嫌われちゃったかな」
松本さんの、寂しそうな声に胸が痛い、また、私のせいだ、私が居るから。
「ごめんね、歩ちゃん」
けれど、離れることも出来ないまま、松本さんに抱きしめられる、私
「てっきり、一くんに、聞いてるんだって、思ったから、びっくりさせたよね、不躾だった」
松本さんの腕に包まれて、何も言えないまま、ただ、首を横に振って、泣いた。
「よしよし、泣いちゃえ泣いちゃえ、泣き止むまでこうしててあげるから」
泣きながら思った、これは、恋じゃないし、家族愛でもない、ただの、我が儘だ、お兄ちゃんを、独り占めしたい、ただの、私の我が儘。
都合のいいように解釈して、都合のいいように納得したかった。
いじめられて、誰にも理解してもらえなかった時、辛くて苦しい時、味方でいてくれたから、優しくしてくれたから、恋も愛も知らないくせに、悩んでるふりをして、先延ばして、逃げてただけなんだ、けれど、なら、私は。
「いつか、本当の恋愛ができるのかな?」
「できる、だって、歩ちゃんの青春はこれからだから、辛いことも、たくさんあるけど、楽しいことがたくさん待ってる」
引きこもることをやめて、外に出よう、知らないことがあって、ありえないこと尽くな日常みたいな非日常に一歩、踏み出そう。
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