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振り返りたくても、振り返れない、聞き慣れた声と歩調、握っていた、カッターを取り上げて。
「切らないって、約束したよな? 歩」
カチカチと、カッターの刃を仕舞いつつ聞いてくるのは、お兄ちゃんで、高校入学してから、染め上げた金髪と耳に開けたピアスがキラキラ光っていた。
「…………お兄ちゃん」
言えないまま、ただ、俯いて唇を噛んだ、泣きそうだった。
「泣くくらいなら、するんじゃねぇよ」
お兄ちゃんは、諦めたみたいにため息をつくと、横切って部屋を出て行き、すぐに戻ってきて、ぶっきらぼうに。
「手、出せ、な?」
おずおずと、手首の差し出して、痛々しい傷口がギュッとあらわになる、胸が痛かった。
「もうしないって言ったのに、約束したのに……」
言葉が、転がり落ちてく、自己嫌悪に押しつぶされそうになる。
「アホ」ポクリと叩かれた。
「お兄ちゃん?」
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