第二章

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結論から言って。近くを見回った限りでは、特別ヒトは見受けられなかった。 「これはいったいどういう事なのかしらね・・・」 「どういう事なんだろうなぁ」 こんなところ、見るからに観光地以外の何者でもない。 観光客然り、出店然りが出回っていないというのは、異常極まりない。 「やっぱり、別の世界だとか?」 「無いわね」 一言で切って捨てる。 やはり、頑として認めたくはないらしい。 「まあそれでも、次の目標になりそうな場所は決まったな」 省吾も、別段本気で言ったわけではないようだ。話半分で受け流す。 「あの塔ね」 首をそらして遠くをみつめる。目を細めると、霞がかった雲の向こうに、うっすらと高い塔が見える。 高台のここからでも、その全貌は見受けられないのだ。近くに寄ったら、どれだけ高いものかと予想もできない。 「しっかし、人っ子一人見受けられないどころか、ろくな生き物もいないな」 唯一生息してるといえるのは、そこらに生えてる低木ぐらい。 こんな荒野にそうそう生存範囲を広げる生物がいないというのは、まあ分からない話でもないのだが、しかし、トカゲの一匹もいないというのは少しばかり不安になってくる。 「川辺にもなにも居なかったものね」 今自分たちが居るところは明らかにおかしい。 やっとそのことを自覚したとき、二人は、ここにたどり着いたときにすら感じなかった不安を覚えた。 「つまらない日常を彩るスパイスぐらいにしか考えてなかったものだけど、さて、少しばかり認識を変えなければならないようね」 「そうだな、一体全体どうして俺たちがこんなことに巻き込まれたのかは予測できんが、すごくやっかいなことになったのは間違いないらしい」 これは、自分たちがどこにいるかなんてそんなモノが重要になるほど、ちゃちなものではないのだ。 すぐにでも、逃げ出さなければならないだろう。彼らのイキモノとしての本能が、そう告げていた。
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