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すべてが終わるその世界。
青い群青のその狭間。
輝く月あかりのその下で。
彼女は今も、あなたの事を待っている。
第■■章
月の光は、冷気の下でこそ美しい。
丸くかたどられた窓より降り注ぐ光は、無音という音を持って『彼女』を染め上げる。
『彼女』は美しい。
穢されぬ美、完成した美、天壌無窮の美―。
それは、閉じた世界の美しさだ。
唯一無二で、何物にも代えがたい。
故にその価値を持って、人は彼女を『聖上』と称すのだろう。
――――彼女にはすべてが与えられた。
彼女にそれが不要なものであったとしても、人にとってそれは、なんら一考に値するものではなかったのだ。
どうか私達をシアワセにしてください。
どうか罪深き私にシュクフクをお与えください。
それだけだ。
それだけが民衆が彼女の美しさをたたえる理由。
それだけが、彼らにとっての全てであったのだから。
彼女は祈った。
ひたすらに、ひたすらに。
来る日も、来る日も。
ただ無心に願い続けた。
……何に?
――――――そんなものは分からない。
……何を?
――――――そんな事は考えてみたこともない。
ならば結局、何に対しても意味など無かったのだろう。
彼女にも。
民衆にも。
もちろん、そんな願いや世界にも。
それでも……いいや、だからこそ彼女は願い続ける。
世界が滅んだ、その後も。
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