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第一章
第一節―――鏡谷 匠悟
ソースカツの臭いがする。
そんなことにも何となくの郷愁を感じてしまう自分にちょっとした失望抱きながら、俺は寒空を見上げた。
時節は冬。
少し春先に掛かってきたようなところであろうか。
かと言っても、それは暦上の話だけで、身に襲いかかる冷気に一片の曇りなどはないのだが。
「やっぱり空が汚いよなあ、都会は」
見上げて思う。
故郷では、空にはこびる煙や、地表に乱立するビルなんてモノは決してみられなかったものだ。
それに対して物珍しさを感じるよりも、強い違和感を感じてしまうあたり、俺はまだまだいわゆる田舎者としての気概を捨てきれてはいないらしい。
「だいたい、順応性が低すぎるんだよな、俺は」
そんな事を自虐的に呟いてみたりもする。
〈間もなく、一番線より伊東行きの電車が発車いたしますー〉
車掌のコールが聞こえた。
この電車を逃すと次は二十分後になってしまう。
この寒空の下、そんなに待つのは勘弁していただきたいところだ。
急いで電車へと駆け込みながら、待合室のその奥で、にっこりと愛想を振りまいているアイドルのポスター写真を見やる。
そう言えば、クラスの連中が最近この子がかわいいなどと騒いでいたっけ。
話題に入り込むための小道具としては悪くない。
ぜひとも名前を覚えておこうかな。
などと、まあ世間一般におけるところの、高校デビューに失敗した奴のような感想を持って、人混みの中へと突っ込んだ。
・・・・・はずだった。
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