第一章

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「ああああああああああああああッ!?」 無様な叫び声をまき散らしながら飛び起き、直感的に、これは夢だと判断する。 いったい、何度目だーーーーー? 舌打ちを漏らす。 惨めだ。 流れ落ちる冷や汗も。いつまでも似たような夢にうなされ続けることも。 目の前に広がるぼろアパートも。すべてが俺をバカにしているようにしか思えない。 ああ、そうだ。 また負けたのか、俺は。 「いっそ、夢の中ぐらいでは勝たせてくれないものかね・・・・・・」 冬だというのに、異様なほど熱くなった体を扇ぎながらぼやく。 あのときはまだ高校生の頃であったろうか。 県大会の準決勝。 無様な玉を放り投げた俺は、みっともなく負け散らした。 その時からだったように思う。 こんな悪夢を視るようになったのは。 「悪夢というよりも、トラウマ体験の再発だっけか?」 医者には確かそんなことを言われたのだったか。 「のど乾いた・・・・」 ぼろいくせに、異様に広いこのマンション。 冷蔵庫の元にたどり着くのにも精一杯だ。 「ビール、ビール」 呟きながら、冷蔵庫を探る。 そうして、昨晩を境に切らしていたことに気づくと舌打ちをしながら立ち上がる。 ・・・・・・立ち眩み。 一瞬の揺らめきと、数秒の思考停止。 真上に向かい頭蓋を引っ張られるような感覚を覚える。 「あー・・・、きっつ」 そういえばここんところろくなモノを食っていなかった気がする。 せいぜいがコンビニ飯。 鉄分だの、ビタミンなんぞというモノは気にしたこともなかった。 「久しぶりに外でねえとなあ、早死にとかそんな問題じゃあなくなってきた気がするわ」 最低限の身だしなみを整えるためにと、洗面所へと向かう。 床に散らばっているのは読みかけの雑誌軍。 ひたすら自堕落に過ごしてきた、二十代後半、中年男の末路がそこにはあった。 「・・・・・・昔は、少なからず罪悪感なんてモノを覚えてたはずなんだけど」 津波のように押し寄せてくる後悔をかわしながら、ぺたぺたと足音を響かせ進んでいき、洗面所にたどり着く。 備え付きの鏡をのぞき込んで、思わず唸りが零れる。 「これはひどい」 もはや、浮浪者と見間違わん有様。 髭は伸びきり、髪は寝癖がはねきっている。 「・・・・・・せめての体裁は整えんとなあ」 一人呟き、洗面所を抜け出した。 ・・・・・はずだった。
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