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道乃の両親は、娘を遊園地などに連れて行くどころかまともに顔を合わせる時間も少ないということに責任や一種の背徳感を感じているようで、道乃に、一介の高校生としては多額の小遣いを渡している。その上、彼女はあれもこれも欲しいという性格ではなく、本とCD以外に余りお金を使わないので、お金に困ることはなく、むしろ貯まる一方である。
対して、秋田の両親は、共働きであるという点では共通しているが、そこまで経済的な余裕はなく(私立高校に通えるのでそこそこではある。あくまで道乃の両親と比べてだ)、小遣いも道乃と比べて少ない。それに秋田には「気になったもの、特に服はついつい買ってしまう」という困ったくせがあり、最近は大分治ってきてはいるのだが、常時金欠状態には変わりない。
「……ごめんね。いつもつき合わしちゃって」
「いやいいんだよー。それに一人で下校する皐月は悲壮感がすごくて見てられないもん。」
こんなところでも秋田に気を遣わせてしまっていることに、道乃は申し訳ない気持ちになる。こういうこともあって、彼女は秋田に余り強く出れない。特に強く出る必要がないことが幸福なことだ。
レジで会計を済まし、店を出た。秋田があの状態なので、今日はCDショップに行くことはやめた。秋田には、自分も疲れたからと言っておいた。
駅に戻り、電車に乗る。井戸ヶ台駅に着いて、国道沿いを歩いている間、2人はいつもどおり、たわいもない会話をした。それが日常の、普通の光景であった。
その道では、朝と同じ場所で、おそらくは同じ人たちが工事を続けていた。道乃は秋田と話しながらも、休憩に入った作業員の一人が、首に小さなペンダントを付けていることに気付いた。それは円形で、紫色に光る物(おそらくガラスだろう)が銀色の縁にはめ込まれていた。すでに日は沈んでいたが、工事用のライトのおかげでそれを見ることができた。人の装飾品を一々見る癖はないのだが、なぜかそれが目に付いたのだ。
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