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「じゃあねー。また明日」
「また明日。宿題は家でやりなね」
秋田の家の前で彼女と別れ、ほどなくして道乃も自宅に着いた。当然だが、道乃の帰りを待つ人はいない。いつものことだ。自分が家に着いた時には家に誰もいないというのは小学生のときから変わらない。逆に誰かいたとしたら、一瞬、不審者かと思ってしまう。
なので当然夕食を作ってくれる人もいない。道乃はまず自分の夕食を作る。両親は外で食べてくるので作らなくていい。だいいち、こんなズボラ飯を育ち盛りの娘が食べていると知ったら、彼らはなんて思うだろうか。もちろん食料品を買うのも道乃だ。食費については、小遣いとは別に渡されている。前回買い物に行ったのは一週間ほど前なので、食材は少なかった。これから買い出しに行く気はさらさらないので、あった野菜を適当に炒めて醤油などで味付けをし、レトルトのご飯と一緒に食べた。使った食器を洗い、棚に戻して、お風呂のセットをしてから二階にある自室に入った。
道乃は寝巻に着替えるまでは家でも制服ですごす。もちろん休日は別だが。制服の上にエプロンをつけて料理をし、食器洗いのときにつけなおすのも面倒なので、その格好で夕食も済ます。誰も見ていないのだから、気にする必要がないのだ。
自室に戻って、学校帰りに買った本をバッグから取り出して、勉強机の椅子に座って読み始めた。短編の一作目は、著者自身も「この短編集のなかで一番気に入っている作品」と言うように、これだけでも買って良かったと思えた。内容は、家族で外出した途中の駅で、妻の姿が見当たらないことに気付いた男が、近くの町のバーに探しに行く。最終的に、男は妻から、彼ら2人を含め家族はみんな列車の事故ですでに死んでいるということを知らされるという話だ。それまでその男は自分が死んだことにはっきりとは気付かなかったのである。
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