2.Breathe

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<5>  翌朝、道乃はスマートフォンのアラームで目を覚ました。ベッドから降り、大きく伸びをする。それからどれくらい眠れたのかを軽く計算し、相変わらずの短さに肩を落とした。しかし気分は悪くなかった。昨日購入した本の続きを読めると思うと、道乃自身も気付かないうちに自然と笑みが浮かんだ。  着替えを済ませた道乃は、鞄の中に「夕暮れをすぎて」が入っていることを確認して自室を出た。そして朝食、洗面を済ませた後、戸締まりを確認して家を出た。昨日感じた春の陽気は、全く感じられなかった。 「……暗い」  道乃は空を見上げて、そう呟いた。昨日が晴天だったせいだろうか、空一面に灰色の雲が広がっている光景は異常に見え、彼女に若干の恐怖を与えた。こんなんじゃまた美雪に笑われるなと、道乃は苦笑した。  国道沿いに出てしばらく歩くと、静まり返った工事現場が見えてきた。昨日のこの時間は確かに工事をしていたのだが、今は誰もいない。これによって、ここ最近で一番静かな朝となったのだが、道乃にとってその事実が二の次となるようなことが、その時起きた。 「あれは……」  砕けたアスファルトの上に、見覚えのあるペンダントが落ちているのが見えた。円形で、紫色に光るガラスが銀色の縁にはめ込まれたものだ。道乃の思考は、高速で働き始めた。拾うべきか、無視するか。拾った場合はどうするか。交番に届けるべきか、少なくともドリルで砕かれることはない安全な位置に移動するべきか。道乃は二歩歩く間にそれを考え、結論を出した。コーンバーを跨いでペンダントに近付き、それを近くにあった椅子の上に置いた。良いことをした気になった上に、時間のロスもなかったので、道乃の機嫌はすこぶる良くなった。生まれて初めて、道乃は自分がにやけてしまっていないかを気にして手鏡を覗いた。
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