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道乃はスマートフォンで設定しておいた目覚ましのアラームで目を覚ました。ベッドの上で上半身だけを起こし、飾り気の無い質素な部屋を見回す。この部屋を見た人の何割が女子の部屋であると分かるだろうかと、道乃はふと思った。
それから道乃はベッドから降り、身支度を始めた。クローゼットから高校指定の制服を取り出し、それに着替える。そして鞄と丁寧に畳まれた寝巻を持ち、部屋を出る。ここまでの一連の動作を、道乃は淡々と進めた。
道乃は思う。これは特別な事なのだろうかと。世界には何億という人間が存在しているが、その全てが道乃と同じ様な生活を送っている訳ではない。その中で、自分は一体どのような括りの中に属すのだろうかと。道乃は少し考えたが、結論を出せずに放棄した。
道乃はどちらの割合が多いのかということなど知らない。しかし仮に知っていたとして――そして道乃自身が少数派だったとしても――、自分が特別だと思う事は難しかっただろう。自分が当たり前の様に行い、自分の周りの人間も皆同じ様に行っている事を特別だと認める事は則ち、自分と自分の周りに住む人々が、世界の理から外れていることを認める事と同義であるからだ。
そしてどちらにせよ、自分には関係の無い話だと道乃は思う。しかしそれは間違いであったと後に気付くことになる。全ては、この思考から始まったのだと。
だが少なくとも、今の道乃には関係のない話であり、それが道乃の行動を妨げる要因になる訳もない。他に誰も居ないキッチンでトーストを作り、誰も居ないダイニングでそれを食べる。味などはどうでもいい、腹が満たされればそれでいいと自分に言い聞かせながら。今は美味しい料理を作ってくれる両親は居ないのだから。
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