1.Speak To Me

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<2>  玄関の鍵を閉め、駅へと向かう。まだ朝早いので、住宅街には静けさが漂っていた。住宅から漏れてくるテレビの音とバイクの音が少し聞こえたくらいだ。  道乃は寝ざめがとてもよく、毎朝、まるでスイッチが入ったみたいに目覚め、行動することができる。夜遅くまで起きていても、前日どれだけ疲れていようと、そうである。疲れはとれないし、眠気は感じるのだが、何故だか寝坊をしない。起きてすぐに様々なことが思考できる。逆に、寝付くまでにはそこそこの時間が必要で、さらに、小さな物音でもすぐに目を覚ましてしまう。それにより、若干目つきが悪くなってしまうのを、道乃は気にしていた。相当眠りが浅いようだ。  何度か道を曲がり国道沿いに出る。国道沿いを歩いている途中、道路工事の現場を迂回した。作業員たちは、紺色の作業服を着て、もとは純白であっただろう薄汚れたタオルを首に巻いて、ドリルらしきものの轟音を響かせていた。この辺りは年中どこかしら工事をしている。 私の両親も、この人達と同じくらい多忙だが、収入は全く違うので、私は恵まれているほうなのだなと道乃は思う。道乃の父は貿易商社のエリートで、世界中を行ったり来たりしている。母は出版社に勤めていて、人気作家をいくつも担当している敏腕編集者だ。どちらもその多忙さに見合った賃金をもらっているので、金銭的な問題はほぼない。道乃も、こうして高校に通えている。  家から20分ほど歩けば井戸ヶ台駅に着く。駅の入口にある時計を見て、時間を確認してからホームへと向かう。改札を抜けたところで、電車の接近を知らせる音が鳴った。電車が来るのは数分後のはずなのだが、ダイヤが乱れているのだろうか。道乃は腕時計を見て、少し顔をしかめた。駅の時計は3分ほど遅れていたことに気付いた。この時計は、道乃の高校入学祝いに父から貰ったカシオの電波時計だ。駅の時計なのだがら、しっかりしてほしい。道乃は急いで階段を下り、電車に駆け込んだ。通っている高校のある明応駅までは、昭光駅を経由して、1時間ほどかかる。
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