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下校前のホームルームが終わり、道乃は秋田と一緒に教室を出る。この学校は50分×7限という時間割で動いている。日は長くなってきたとはいえ、全ての授業を終えた頃には、日没前の暗い夕焼けが空一面に広がっていた。いまだにこの時間割に慣れていない秋田は、炎天下の中、散々連れまわされた犬の様に疲れていた。道乃も、慣れたとはいえ、多少の疲労感が体の周りにまとわりついていた。だが疲れたからと言って、このまま家に直帰するのは面白くない。彼女たちは、放課後に書店やCDショップ等に行くことが半ば日課となっていた。毎日毎日何かを買うわけではないのだが、親しい人と店を巡るのはとても楽しいことだ。これから下校する沢山の人々の楽しそうな声と、熱心に練習に励んでいる運動部員たちの掛け声の中を通り、道乃たちは駅へと向かう。
「つかれたよー。皐月、おぶって」
先に言葉を発したのは秋田だった。下校中の会話においてどちらが話を始めたかというのは、普通は全くもってどうでもいいことなのだが、道乃にとってはそうではなかった。一人っ子で鍵っ子である彼女は幼い時から人見知りが激しかった。年齢を重ねるにつれ少しずつ改善されてはきたのだが、初対面の人と話すと声が上ずってしまうことが多い。自分から話を振ることも苦手だ。話が始まれば普通にしゃべれるのだが、会話を始めるとなると、どうしても緊張してしまう。たとえそれが、小学校時代からの付き合いである秋田であっても。ただ、おしゃべりな秋田と一緒にいるとあまり困ることがないので、それが道乃の人見知り克服を遅らせている。
「やだ。無理」
「無理じゃないよー。私のほうが少しばっか重いけど、何とかなる」
「ならないよ。1日1日そんなに疲れてたらもたないよ?」
「大丈夫、途中で不登校になったりはしないよ。でも勉強は危ういからサポートよろしく」
それから電車に乗って昭光駅に着くまで、道乃は秋田の話を聞いて、相槌を打ち、いくらかの会話をした。彼女の話は今日の授業についてから始まり、昨夜のテレビの話、道乃以外の友達の話。秋田はすでにクラス内外で何人もの人々と仲良くなっていた。それは彼女が特別なわけでもないのだが、道乃は彼女のフランクさ、親しみやすい人柄がうらやましかった。自分もそのくらい話せたら、色々と違ったのかもしれない。
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