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漆黒の闇に閉ざされた森の奥深く、ローブを目深に被った二つの影が浮かび上がる。
梟や獣の声がどこからともなく響き渡っており、辺りは一層の不気味さを増していた。
「そちらの首尾は?」
だと言うのに、問い掛ける青年の声は静かで、まるで臆した様子はない。
ヒト目を忍ぶ為とは言え、わざわざこんな場所を指定したくらいだ。
中性的で柔らかな外見とは言え、相当肝が座っているのも当然である。
「問題ない。殿下もこちらの存在にはまるで気にしていないようだ。他の駒も上手く動いている事だろう」
「油断は禁物、ですよ」
ローブだけでなく、仮面で顔を隠した女は、青年の忠告を鼻先で笑う。
「そう言う貴方の方はどうなんだ?貴方の扇動によって、ディアネストはクーデターの真っ最中だろう。片腕である貴方が、殿下の側から離れて怪しまれないのか?」
「最初から、彼は私を信用してはいませんよ。見事にダンケルハイトの象徴と言うべき性格の方ですので」
女の指摘にも、青年の微笑は僅かにも揺るがない。
張り付けた仮面よりも、手の内を読ませない男だった。
「私がふらりとお側を離れても、殿下はさして気にもされないはず。でなければ、こうして夜の散歩を楽しむ事は不可能ですからね」
「ふん、余裕なのは結構だが、後を付けられでもしたらどうするつもりだ」
「私が追手の気配に気付けないとでも?ふふ……無用な心配ですよ」
どこまでも冗談めかした男の口調に、女は呆れたように肩を竦める。
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